CureAppの禁煙治療用アプリについて、保険償還薬価(初回診療時)が25,400円と示されました(2020/11/11)。ピーク時の売上予想は年間7.5億とされています。これを投資案件としてどうみるか。
CureApp佐竹社長は薬事承認後のプレゼンで、保険償還価格への期待として、「世界の治療用アプリでは、保険償還が月数万円の事例」と説明しており、今回の結果である2.5万円は期待値の半額以下であったことでしょう。
治療アプリ®は、一般的なヘルスケアアプリと異なり、臨床試験による薬効の担保を得て、薬事承認される医療製品と定義されています。つまり販売前に開発コストがかかります。
この開発コストですが、佐竹社長は承認取得後のプレゼンで「新薬の開発は最低でも1,000億以上必要と試算される一方で、治療用アプリの開発は、数億から数十億に過ぎない」ことを強調しています。今回は~承認の成功確率100%に終わりましたが、今後事例が増えていけば、成功確率は低下していくでしょう。医薬のP-3~承認確率は80%~96%ほどですし、ゼロからの成功確率は18%ほどに下がります(製薬協データ)。今回の開発試験では、ニコチン依存症患者115⼈を対象に、オンライン診療群(58⼈)と対⾯診療群(57⼈)について比較し、非劣勢を証明しました。さらに全国31カ所の禁煙外来を受診した喫煙者584⼈を対象に、外来の標準的治療を行ったグループと、これに加えて治療⽤アプリも併⽤したグループに分けて追跡し、効果が1年にわたり持続することを示しています。
薬価25,400円、ピーク販売額7.5億、臨床費用推計35億、一般的販管費率13%、販売期間10年として、一般的販売年次推移モデルを適用して、NPV、IRRを推計してみました。開発費35億をピーク販売額7.5億で回収するのですから、NPVが辛うじてプラスで、IRRが0.3%と推計され、およそ投資案件とは言えませんでした(医薬の事業案件評価であれば、IRR 10%超でGoサイン)。
このCureAppの事業性をみるには、非医薬である医薬卸や、非臨床受託企業CROによる、医薬事業進出モデルが参考になりそうです。
CRO大手であるシミックは、非臨床試験受託から、開発試験受託、医薬製造受託、レンタルMR事業へと事業領域を拡大しています。満を持して進出したのが医薬販売事業そのものです。国内トップ卸のメディパル(シミックには医薬流通・医薬品保管機能がないためこれを補完)との合弁事業オーファンパシフッィクによる希少薬販売事業になります。希少薬3品目で、売上年次推移が、1億、1.9億、3.1億、19億、20億、30億、32億と成長軌道にはいっています。
また希少薬中心に新規医薬事業進出における成功モデルと言えるのが、ノーベルファーマの創業モデルになります。2011年に導入3品目を得て、それらを医薬会社に販売委託(自身はコプロモーション実施による販売促進の学習期)することから事業を始めました。翌年2品目を追加(1品目はレンタルMRによる自社販促開始)、次年度には5品目追加(自社MR+レンタルMRによる自販)、翌年度に2品目、さらに翌年度に1品目追加という驚異的な成長力をみせています。年間数億規模の製品群の中に、例外的な大型品2品目があり、ピーク時売上高が、91億および131億となり、ノーベルファーマ全体を支えています。その内一つは、テバからの導入品でピーク時2億であったものが、販売7年目に適応拡大に成功し、年間売上高が20億、52億、91億と拡大して、「希少薬の適応拡大による大化けモデル」の典型例となっています。
創業後3年のノーベルファーマ社モデルは、CureApp禁煙補助薬における年間売上予想7.5億規模に相当する、年間売上1.45億~9.5億規模の品目を抱えて、創業期の苦闘時代でした。その後に「希少薬の適応拡大による大化けモデル」という起爆剤を得て、大型品導入にも成功のうえ、自社独自開発も進めるに至り、医薬事業での成功モデルになっています。
CureApp社は、今回の禁煙補助剤に続いて、非アルコール性肝炎(NASH)治療、高血圧治療など(開発費用が数億規模では済まなくなる)次期パイプラインを抱えています。その近未来は、シミックの医薬事業進出モデルや、ノーベルファーマの創業期モデルに類似しているようです。デジタルヘルスにおいて、「希少薬の適応拡大による大化けモデル」に相当するような「飛躍」が無い限りは、CureApp事業は、医薬事業とは異なる地味なサービス事業と言えそうです。
なお、日経新聞2020/9/8付け記事「脳でデバイスを操作 戦国時代突入のデジタルヘルス」が、いま見えているデジタルヘルス事業の限界をよく分析しています。とくにメディア露出のみの「似非」デジタルヘルスベンチャーの跋扈に警鐘を鳴らしていいます。他方で、既存技術から見えるデジタルヘルスではなく、脳内チップ埋め込みなどによるデジタルヘルスの将来可能性にも触れています。